あじ処　まこ

「あじ処まこ」は川越のお隣、上福岡にある和食割烹のお店です。一度伺って大ファンになりました。こちらにお店を出されて35年になるそうです。カウンターメインでお座敷が一つ、BGMにはナット・キング・コールが流れ、美味しい料理と美味しいお酒に舌鼓、静かにゆっくりと料理もお酒も味わえるお店です。こちらのお店に伺うと、しばらくは他の料理は口にしたくないと思う程その余韻に浸れます。

最初に出されるお通しからいつも楽しみです。この日はふぐの皮の煮こごりでした。見て下さい、この透き通った煮こごりを！一つのにごりもなく、箸を付けるのがもったいない位です。丁寧に取られた出汁とあっさりしたふぐの皮がマッチして上品なお味です。

お刺身も盛り合わせをお願いすれば、旬のものを手を加えて出して下さいます。写真の鰤も、奥にある生のものと左手の軽くあぶったものとでは味わいが全然違います。一つの素材で違った味を楽しめる、そんな粋な計らいをして下さいます。

こちらは「こうばこがに」です。こちらのお店でこのかにを初めて知りました。「こうばこがに」とはズワイガニのメスのことで、ズワイガニよりも小振りです。オスとメスと区別するために違う名前が付けられているのだそうです。

「かにを食べている時は無言になる」とよく言いますが、こちらでは、ちゃんと身をほぐし、身と味噌とを分けて出してくれるので、手も汚れず、無言になる心配もありません。身が本当に軽く甘酢で締めてあって、それがこうばこがにの美味しさをより引き出してくれていました。

焼き物はこうして炭火で丁寧に焼いて出されます。火の加減を調節しながら、ゆっくり時間を掛けて調理して下さいます。それを見ながら、ちびちびと日本酒を傾けつつ、自分の頂く料理が出来上がるのを待つのも、また楽しいものです。

〆には土鍋で炊いた牡蠣ご飯を頂いたのですが、注文してから土鍋で炊いて下さるので、出来立て熱々、牡蠣のプリプリ感もおこげの香ばしさも最高でした。食べ切れなかったご飯はお土産にして下さいました。嬉しい限りです。

お料理は然ることながら、心遣いや気配りも素晴らしいです。

寒い日には足元に炭を置いて下さいます。これが本当に暖かい。足元が暖かくなると体の芯まで暖かくなります。炭火の優しい色と暖かさに心が癒されます。お酒も何を頂くか迷っていると、いくつか利き酒させて下さって、自分の気に入るものを選ぶことが出来ました。

今頂いている料理やこれから頂こうとする料理にはどれが合うかなど考えながらお酒を選ぶ、そういう行程がまた楽しみでもあるのです。いくら料理が美味しくてもそれに合わないお酒ならせっかくの料理も不味くなる、またその逆も然り。料理とお酒のバランスはとても大事で、そのバランスが取れてこそ心も体も幸せに満たされる・・・そう思うのです。

きんきを頂いた時も焼くか煮るかで迷っていると、身を半分にしてどちらも出して下さいました。料理を作る側からすれば、手間の掛かることで、面倒なことだと思いますが、それを何とも無くやって下さることが食べる側からすればとても嬉しいことです。食べる側を喜ばせてくれる、そんな心意気を感じさせてもらえることだけでも幸せな気分になれます。

こちらで使われている器もとても素敵で、ご主人が遠くまで足を運んで自分で選んで来られるのだそうです。仕舞ってあるお皿一つ一つに紙が敷かれ丁寧に扱われて気を遣われていることが分かります。美味しく出来た料理も陳腐なお皿に載せたら台無しになります。料理とは五感で味わうものだということをひしひしと感じさせて下さいます。それを熟知されているご主人なのだと思いました。

お値段だけを見ると、どこかの居酒屋とかそういったところに比べると、決してリーズナブルとは言い難いですが、こちらの料理やご主人の仕事振りを味わえば、この料理でこんなにリーズナブルで良いのかと思うはずです。美味しいものを頂くことが大好きな食いしん坊の方は、ぜひ一度伺って頂きたいお店です。心もお腹も満たされて幸せな時を過ごせること、お約束します。

お知らせ：あじ処「まこ」は平成21年9月27日に閉店されました。
　　　　　この界隈でこれほど丁寧で、旬の味を堪能させてくれる店を私は知りません。
　　　　　とても残念です。